- ②荒川の水質
- 水資源を考える上では、荒川の水がどの程度汚染されていて、そして、その汚染が何に由来するものなのかを把握することが重要です。多角的な調査で、荒川の水質を研究します。
地理的な要素を扱うことのできるGISと呼ばれる情報システムに、荒川の汚染に関係がありそうな要因の情報をデータベース化しました。それを用いて、一般細菌数のデータに関して分析を進めたところ、各河道地点における一般細菌数の平均値や最高値などと、その地点の集水域の特徴を示す値との間に強い相関関係があることが示されました。「上流域に人口や家畜が多い河川では河川水が汚染されている」という関係性が明らかになり、汚染との関係が説明しにくい特定の要因(地質など)にも、河川の汚染と相関関係があるということが示されました。
また、統計的な分析の結果、各地点の一般細菌数出現頻度を示すパラメータを集水域の特徴を示す数値で説明できることがわかりました。これは、右図のように集水域のデータベースがあれば、任意の河道地点に対して細菌数の濃度頻度を推定することができ、水質の予測や水利用者の感染リスク評価ができることを意味しています。将来、集水域の状況が変化した場合でも、河川水質の予測や評価を行うことができます。このように汚染要因の把握と水質の評価に集水域データベースが役立ちます。(流域水資源グループ)
- ▲荒川・利根川流域の表流水に関連する汚染要因を探る
- 河川水質データと流域の特徴を示す情報(上記132項目の集水域情報をデータベースとして整備した)から統計的な関係を分析
- ▲汚染の可能性のある河川、感染リスクの評価
- 荒川流域のすべての河道の一般細菌による汚染度を計算し、河川の水を直接に誤飲してしまった場合の感染リスクを評価。図は汚染が最も高いと思われる時の汚染濃度と、その時に直接誤飲してしまった場合の感染リスクのマップ。ここで示した評価の範囲では、汚染濃度がかなり高い時であっても感染のリスクはリスクの判定基準を超えないことが示された
1日35万m3の水道用水を供給している浦山ダムを対象に、浮遊物質(SS)やクロロフィルa(Chl.a)を含む水質予測を行い、ダム湖内と下流河川における水質変化を検討しました。将来のダム湖の水温予測においては、表層で2.8℃、中層で2.0℃、底層で1.6℃高くなり、将来、水面近くの暖かい層と底付近の冷たい層の水温差が大きくなり成層が強固になるため、ダム湖の水質悪化につながることを示唆します。
また、ダム湖の大きな水質問題にアオコがあります。アオコとは、植物プランクトンの異常増殖により水面が緑色になり、悪臭を放つ現象ですが、この植物プランクトンの指標となるChl.a濃度は将来低くなることが予想されました。水温の上昇は植物プランクトンの増加につながると言われますが、本研究では、将来の気温上昇に伴った水温の上昇がかえって植物プランクトンの増殖に適さなくなること、また頻度の高い出水とダム湖の表層からの取水により表層付近にいる植物プランクトンが排出されること、さらに出水後に残留する濁水により光合成が阻害されることといった要因から、植物プランクトンは増加しにくくなると予測されます。(流域水資源グループ)
- ▲クロロフィルa濃度の比較/現在気候と将来気候
- 表層の日平均濃度が20μg/L以上を超える日数は、9年間で現在気候では370日、将来気候では66日と、将来的にChl.a濃度は減少すると予測される
- ▲ダム湖内における現在と将来の水質変化
- 予測された気象データと浦山ダムへの流入量データをバイアス補正し、ダム湖の水質予測を行った
今回の調査では、アイチウイルス(AiV)をヒト糞便汚染起源を推定する指標に、トウガラシ微斑ウイルス(PMMoV)をヒト糞便汚染指標の有無を推定する指標とし、荒川流域におけるA i V の定量、PMMoVの定量および起源推定の調査を行いました。その結果、AiVは他の腸管系ウイルスと同様に下流地点から検出され、一方、PMMoVはヒト腸管系ウイルスに比べ高濃度で存在しており、AiVと同様に人口の少ない上流域地点では、PMMoVは検出されませんでした。PMMoVは雑排水中では検出されない(あるいはごく低濃度である)ことが多く、荒川流域においてPMMoVが最も高濃度であるということから、ヒト糞便に由来する汚染の可能性が高いという結果を示します。(水質評価グループ)
- ▲荒川におけるPMMoVとヒト腸管系ウイルスの関係
- 腸管系ウイルスを検出した試料において、PMMoVの濃度が高いことが確認され、水環境中のPMMoVがヒト由来である可能性が示唆された
荒川の有機物組成が流下に伴ってどのように変化しているかを調査・分析しました。従来は複雑な有機物組成を解析する手法に限界がありましたが、本研究では、高分解能・高精度を特徴とする「フーリエ変換質量分析計」を利用して、有機物の特徴を分子レベルで明らかにすることを試みました。上流から下流にかけての有機物の組成変化を詳細に評価した結果、下水処理水が流入した地点では、有機物分子の平均H/C比(炭素に対する水素の比)が上昇する一方で平均O/C比(炭素に対する酸素の比)は減少する様子が観察され、下水処理水の流入によって水中の有機物組成が大きく変容する様子をとらえることができました。(水質評価グループ)
- ▲荒川における河川流下に伴う有機物組成の変化
- 下水処理水の影響を受けて、河川水中の有機物組成が大きく変容している
本研究で活用しているフーリエ変換質量分析計
工学研究科
准教授