- ②地下水・再生水の利用
- 将来的に持続可能な水利用を考える上で、地下水や再生水の適切な利用の方策を考えることは今後非常に重要です。下水処理水を高度処理した再生水など、具体的な水質評価が必要とされます。
地下水をいかに使うか? 汲み上げ続けても大丈夫か?
地下水は、身近な水源として、農業、水道、産業、ビル、家庭用など、様々な用途に使われていますが、過去の大規模な地下水利用は地盤沈下を招き、一部の地域では、地下水利用が規制されています。今後、限られた地下水をどのように利用すべきかを検討するため、荒川中流域の川島町にある地下水の水位観測井戸の観測データをもとに、地下水の揚水量と地盤沈下の関係を表すシミュレーションモデルを作成し、地盤沈下の原因と、その対策について調査・研究を行いました。調査の結果、地下水位は、過去30年ほどで回復しつつありますが、農業用の地下水の用水により、最も深い300mの地下水帯水層を除いて、80mと190mの地下水位が季節変動していることがわかりました。それにつれて、地盤も少しずつ沈下しています。季節的に変動が大きい地下水利用は、全体的に地下水位が回復しても、地盤沈下を引き起こす可能性があり、地下水利用に際しては、年間の総用水量と、季節的な変動を管理する必要があります。
地下水利用の現状としては、生活用水、農業用水としての利用が中心で、渇水年には揚水量が増加し、地盤沈下はゆるやかに進行しますが、現状程度の地下水揚水量を維持できれば、長期的な地盤沈下量を小さく抑えることは可能です。また、地下水揚水の可能量は,水道用水・工業用水と農業用水の揚水量のバランスで決まるため、農業用水と水道用水・工業用水の取水層を分けることが望ましいと考えられます。農業用水は特定の季節に集中して揚水するため、地下水涵養が速やかに行われるよう、浅い帯水層から(ただし,沖積層の基底礫層など一部の帯水層ではヒ素等が検出されるので,水質の把握が必要)、水道用水・工業用水は,水質・水温がより安定している深い帯水層からの取水が望ましいと言えます。(都市地下水管理・利用グループ)
- ▲荒川中流域(川島)の地下水観測井戸
- 深さの異なる3つの井戸があり、それぞれの地下水位と地盤沈下量を観測した
- ▲地下水位別に見る累積沈下量
- 農業用の揚水により、80mと190mの地下水位が季節変動する。それにつれて、地盤も少しずつ沈下している
再生水を水資源として広く普及させていくためには、水質上の課題があげられます。サルモネラやクリプトスポリジウムなどの病原微生物のほかにも、消毒副生成物、医薬品類などの有害化学物質、バイオフィルム、日和見病原体などの微生物再増殖も障害になりえます。中でも、微生物再増殖のポテンシャルの把握や、再増殖低減のための方策は、再生水の消費期限を考える上で大きく関係してきます。再生水の給排水過程による微生物の再増殖を調べたところ、5回の調査のうち3回、微生物再増殖が確認され、残留塩素が十分に残っている間は微生物再増殖は起こらず水質は保たれていましたが、貯留などにより残留塩素が低下した時に再増殖が起こることがわかりました。実際には、再生水の造水時には3.0 mg/Lの残留塩素があっても、貯留時間が長引くにつれ、塩素は消費されてしまいます。そのため、再生水の消費期限をのばすには、塩素の再注入が必要となります。(水質評価グループ)
- ▲下水処理水の再生利用のための処理と再生水中における微生物の再増殖
-
- ▲再生水給配水過程での微生物再増殖と残留塩素濃度
- 5回の採水のうち、3回で微生物再増殖を確認(再増殖は、貯留などにより残留塩素が低下した時)
再生水の消毒剤を減らすには、微生物再増殖が起こらないような環境をつくることが重要です。微生物再増殖が起こっているケースでは、生分解性有機物の指標である同化性有機炭素(AOC)濃度も低下していることがわかり、生分解性有機物濃度を低く保てれば、微生物再増殖も低減できると推測できます。
再生水を造る水処理の過程では、色や臭いを分解するためにオゾン処理がよく用いられていますが、一方で、オゾン処理により生分解性有機物が増加し、微生物再増殖を促進してしまっているという側面があります。そこで、オゾン処理の後に生分解性有機物を除去するプロセスを入れることにより、微生物再増殖を抑制できるのではないかと考えます。再生水の造水プロセスを見直すことで消毒剤を減らすことができ、より効率的で、余計な副生成物の生成を抑えた処理法にできます。(水質評価グループ)
- ▲再生下水処理過程におけるAOC変化
- オゾン処理により、生分解性有機物が増加している
- ▲微生物再増殖と同化性有機炭素(AOC)の関係
- 再増殖はAOCの消費を伴い、生分解性有機物の低減が再増殖ポテンシャルの低減に有効だといえる
工学系研究科
教授